高性能・健康住宅「ファースの家」開発本部株式会社福地建装

住まいと電化の連載コラム

第20回/シリーズ総集編 家って何?:PART3

家の価格と性能

家を造るにあたり多くの人たちは、建築基準法などの規制をクリアーしたあと、外観や内装、間取りなどを主に優先してきました。顧客側と供給側の双方がそのように同じ思考と価値観を持ったら、家づくりの全てがその方向に向かうのは当然のことと思われます。
買い手と売り手が同じ方向を向いたら、次は価格競争が激化するのも当然の成り行きとなります。その結果として、先進国の中ではもっと短期間で家を粗大ゴミにしてしまい、住宅後進国となってしまったと言えるのではないでしょうか。

価格と性能

同じ間取りや仕様を揃える規格化などを実践してコストダウンを行わない限り、価格と性能はほぼ比例するものと考えるべきでしょう。
坪単価が一人歩きするのは日本の量産体制に起因するように思われます。記述したような住宅は、住んでから住んだ人がストレスを増大させないために、表面に見えない隠れた部分にどれだけの技術と費用が注ぎ込まれたかを問うべきなのです。
価格の裏側に真実を突き詰める視点を見出し、安物買いの銭失いにならないようにしなければなりません。

科学と環境共生

科学とは自然を知ることであり、科学技術とは知った自然とどのように向き合うかの工夫であると思います。人間は、便利さや快適さを求める欲望に留まるところを知りません。
科学技術はそのような人間の欲望を満たしつつ、自然環境をまさに自然のままに維持することを「環境共生」というのでしょう。環境共生の家はまさに科学技術の究極なのです。

短い住宅寿命の要因

一般に使用されるグラスウール断熱材は、乾燥した空気を静止させることで断熱作用を維持します。
公的な断熱気密の仕様書は、ポリフィルムで気密層を構成し、透湿シートで断熱材の抱えた湿気を除去するよう指導しています。しかし、グラスウールとポリフィルム、透湿シートの組合せにおいて、様々な敷地や構造、生活環境などの影響で、10年間以上の長期間においては、水蒸気を遮断させたり、蒸発させたりの湿気管理を行うことは大変に難しいことなのです。
また、新建材そのものも湿気管理の思想を充分に性能へ反映されておらず、しかるにカビの胞子が主であるハウスダストの発生、腐食菌の発生などで住む人のストレスを増大させ、短期間で住み続ける意欲を失わせる要因となる場合があります。

家の性能と環境共生

環境共生とは、快適な生活を営みながら、自然環境を自然のままで維持することです。それには家の性能を上げることが不可欠で、寒い家は暖房のため多くの熱を消費します。
防暑を意識しなかったために冷房の負荷エネルギーを増大させます。さらにそのこと自体、つまり暖房や冷房の高負担までもが住む人に住み続ける意欲を減退させる要因となっているのです。
暖房を電気で行うのはとんでもないとする批判が多くあります。
また、樹脂で塗り固められた家などとんでもないとする批判もたくさん存在します。表面だけをとらえればもっともな意見と思われます。
しかし、その多くが現場での事実をも確認せず既成観念にとらわれ環境共生の本当の意味を理解していない批評と思われます。

家に完成はない

家は竣工して引き渡しをしてから、住んだお客様と協力をしながら様々な手を加えてゆくのが、戦前までの家づくりの常道でした。家を完成させてしまえば、あとは崩壊しかありません。
手を加えるごとに付加価値を高めてゆくような家づくりが、先進諸国の常識となっています。家を売る会社、ハウスメーカーが存在するのは日本だけなのです。
しかし、巨大組織のハウスメーカーの販売攻略に地域の小さな工務店が対抗できるとするならば、家は販売するものではなく、造り上げるものである本来の家づくりの原点に立ち帰ることに他ならないのです。
さらにその地域で生まれて育ち、その地区に住み続け、逃げも隠れもできない宿命を、最大限の経営資源にすべきなのです。

勉強しない工務店は淘汰される

地域密着工務店が、ハウスメーカーから学ぶことは山積しています。例えば自分の造る住宅の性能すら解らないで施工している工務店が実に多いことに驚きます。
この制度は先ず、自分が建築施工する家の性能を施工者が正確に知っているという、きわめて当たり前のことなのです。現時点で、この性能表示制度を先ず正確に認知している工務店であれば、かなり勉強している工務店と言えるでしょう。

年間建築棟数に限定がある

「家は竣工してから施主と一緒に育てるもの」このように記述しましたが、本物の家づくりに終わりはないのです。
施主と施工者は家づくりを通じての生涯のパートナーであるべきなのです。それにはたくさんの住宅を供給すれば、この定義が根底から成立いたしません。
つまり、優良工務店には、その工務店で生涯メンテナンスを可能とするための能力の限界を知っていて、その能力に合った棟数だけを建築する、年間着工数の限定をはっきりと定めることが大切な要素となります。

生涯メンテナンスとは

どんなに人柄がよくて地域の皆さんから好かれる好人物が工務店の社長であっても、建築する家の基本的な施工技術をしっかりと掌握していなければ、建築した家の床が後日、腐ったり、内部結露で白蟻の被害に遭ったり問題が発生する場合があります。これでは、その人柄や優れた人間性を活かすことが大変に難しくなります。
それは地域の工務店が、生涯メンテナンスを実行できる範囲でしっかりとした性能を確保できる住宅を、年間建築棟数を制限し、さらに真心を込めて造ることです。

時代は逆戻りか

ここまで進化した家づくりに、なぜ逆戻りが必要かを考えたとき、古き良き時代の家づくりが実にこの気候や風土、日本人の感性にフィットしていることに気づかされます。
考えれば昔の日本の家づくりに学識者は介在しておりませんでした。また、建材メーカーも存在しなかったわけで、住む人と造る人が心を一つにして、初めてその家づくりが成立するものであったと思われます。
お金をいただいて家を造り、その造った家に後日、不具合が生じても、その責任は施工者と施主が等分に分かち合ったと言います。まさに関わりのある人たちの技術と知恵と真心が一体となって家づくりが行われてきた証と言ってよいと思います。
無垢の木材、左官仕上げ、漆喰仕上げの優雅さが、再度見直されるようになりました。加えて古き良き時代、人間中心の家づくりの原点を見出す兆候であると信じます。

地域密着工務店の時代に

時代が逆戻りしたと言っても、昔のような萱葺きやオール木材の住宅が街中に建築されるようになるわけではありません。次世代住宅に求められる大きなポイントは、いかにして古き良き時代の家づくり思想を現在の技術に取り入れていけるかが課題なのです。
高気密、高断熱とは、家の温熱環境の一部を担っている性能に過ぎませんし、そのためになすべきことが山積しています。また、木材や建材の含水量の管理で腐朽菌を発生させない工夫、室内での空気汚染物質の除去、夏場の防暑対策、さらには家を構成する部材の一つ一つの機能が確実に活かされていることなど様々な課題の克服が必要なのです。
この課題を克服することで住む人にストレスを与えない家づくりが実践できます。当然、住めば住むほど自分の家に愛着がわき、リニューアルをすればするほど家の資産価値が高まるような家となるのです。このような家を量産システムで実現させるのは大変に困難です。地域に密着した小さな工務店の時代が到来したと思えてなりません。

地域工務店に奮起を

小規模工務店が何とも頼りなく感じてしまうのは、勉強している経営者が非常に少ないことがあげられます。
大手ハウスメーカーはその点において全てがシステム的に勉強しつくされています。どんなに地域密着型の小規模工務店の時代が再来したと言っても、この数十年の間に大きく業界は変貌し、顧客ニーズも様変わりしております。
小規模工務店は、その経営者の経営理念一つでハウスメーカーに負けない家づくりが確実に実践できるものと確信しています。それには、工務店経営者自らの誰にも負けない勉強量が必要です。

学識者の先生との連携

昨今の建築の温熱環境の研究に携わる大学や研究所の先生の皆さん方も、真実は現場にあることを充分に理解し、惜しみなく現場に足を運び、施工現場で我々施工業者と一緒になって研究に取り組む先生方が非常に多くなりました。
10年前は当方を奇人変人としか見ていなかった学識者の先生の多くの方々から、情報交換や共同研究の機会が提案され、すでに様々な共同研究などを行っています。
このように、現場を重視する学識者の先生方が多くなり、地域の工務店の経営者が勉強する機会はいくらでもあり、ともかく家づくりには一に勉強、二に勉強です。

私どもの取り組み

私自身もその小規模工務店の経営者であって、常に現場での仕事をこなしながら住宅性能や部材開発の研究者でもあります。
お金をいただいて家を造り、そのお客様から苦言や賞賛の言葉を浴びて技術を磨き、さらに大工さんや現場で働く職人さんたちが真の師匠と思っています。
そしてその技術と工務店経営のノウハウを提供する開発メーカーでもあります。弊社の経営理念は「住む人と幸せを分かち合う家づくり」です。
家づくりに携わる人々は、お施主さんを中心に、工務店経営者、社員、協力業者、納材業者など多岐にわたります。ここの家づくりに携わる人々一人一人が、お施主さんの幸福そうな笑顔を財産にして、その幸せを分かち合う家づくりを実践しようとしています。
これは理想を言っているのではありません。このシリーズで記述した内容を今一度、振り返り、「家って何?」と問い直していただきたいと思います。
20回にわたる連載を読んでいただいた読者の方に感謝いたします。