高性能・健康住宅「ファースの家」開発本部株式会社福地建装

お知らせ

2011.03.08

北海道新聞 「朝の食卓」 2011.03.08掲載

「無口は男の美学」 福地脩悦

 私が会社を創業前、鉄骨とび職として一緒に働いた兄弟子が亡くなって10年になり、ご自宅へ焼香に立ち寄ってきました。
 とび職は任侠の世界の流れをくみ、荒くれ者が多くいました。彼も無口で朴訥、口より手が先にでる荒っぽさ。しかし普段は優しくて酒を飲む時も静かにすすり、その姿勢は生涯変わらなかったようです。
 兄弟子夫婦は12歳のまな娘を難病で亡くしており、彼の遺影の隣に愛くるしい写真が飾ってありました。
 家から遠い工事現場では「飯場」と言われる宿舎暮らしをします。彼は飯場で私と2人だけになった時、娘さんが生前、病院から送った手紙を読んでくれました。「元気になれずにごめん。米粒つまめずにごめん。父さん母さんごめんなさい」と。「米粒つまむとはリハビリのことなんだ」と、頬をぬらし、鼻水をすすりながら解説します。その時の彼は、とても冗舌でした。
 私たちのような荒くれ仲間の面倒を見てくれた彼の夫人は、任俠の妻のようでした。今も凛として気品を感じます。夫の知らなかった一面を私から聞き、2人の遺影を見上げる後ろ姿がかすかにふるえていました。
 男の冗舌は、いとしい人のことを語る時だけにすべきなのでしょうか。人前でしゃべる機会の多い私は、そんな美学からは遠いところにいるようです。